大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和37年(行)51号 判決 1965年2月27日

主文

1、本件訴を却下する。

2、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方が求めた裁判

原告

「1、被告が昭和三七年八月一三日参加人に対して固定資産税の延滞金及び延滞加算金合計二三八一万六二〇〇円を免除した措置はこれを取消す。

2、訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決。

被告

本案前の答弁として

「主文同旨」

の判決。

本案の答弁として

「1、原告の請求を棄却する。

2、訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決。

第二、当事者双方の主張

原告

(請求原因)

一、原告両名は枚方市の住民である。

二、被告は昭和三七年八月一三日枚方市議会の承認を得て、枚方市に所在する訴訟参加人(株式会社小松製作所)の大阪工場の一部固定資産に対する延滞固定資産税総額四〇八九万五三八〇円の延滞金二一七七万一三八〇円及び延滞加算金二〇四万四八二〇円を免除し、そのころ口頭で訴訟参加人に通知した。

三、しかし被告がなした本件固定資産税延滞金及び延滞加算金免除の措置は違法であり地方自治法第二四三条の二第一項にいう違法な財産の処分にあたるから取消さるべきである。すなわち、

1、固定資産税の延滞金については、地方税法第三六九条第二項は市町村長が納税者が納期限までに納付しなかつたことについてやむをえない事由があると認めるときにはこれを減免することができると規定する。

右法条にいうやむをえない事由とは、滞納について納税者の責に帰すべからざる特別の事情が存するか、或いはこれを徴収することにより納税者について著るしく正義に反する結果を招来する場合を指すものと解すべきであるが、訴訟参加人についてこのようなやむをえない事由は存しなかつたのである。すなわち、被告は訴訟参加人の固定資産税について昭和二九年から昭和三四年までの六年間各年度の第一、二期分のみを徴収し、第三、四期分については故意にこれを徴収せず、滞納処分を行なわなかつたため滞納本税額だけで四〇八九万五三八〇円に達していたのであつて、被告の本件免除措置はこのような事態に対し訴訟参加人の利益のためになされた政治的取引であつて前記のやむをえない事由にあたらないことは明らかである。

2、固定資産税の延滞加算金については、これを減免しうる法規の根拠は存しないのであつて地方税の徴収が市長の責任である以上、根拠法規なくこれを減免することが違法であることは明らかである。

四、原告両名は、昭和三七年九月二四日連名で枚方市監査委員初田豊、同吉田嘉一に対し地方自治法第二四三条の二第一項により被告の本件免除措置は枚方市の財産の違法な処分にあたるとして、第二二回枚方市議会臨時会議事録写を添えて右措置の取消を請求したところ、右監査委員両名は同年一〇月三日附で「地方税附加金たる固定資産税の延滞金及び延滞加算金の徴収権は地方自治法第二四三条の二による請求の対象とならない。」との理由で不受理に決定した旨を原告両名に通知した。

五、よつて原告両名は地方自治法第二四三条の二第四項、地方自治法第二四三条の二第四項の規定による請求に関する規則(最高裁規則昭和二三年第二八号)により被告の本件免除措置の取消を求める。

被告

(本案前の答弁の理由)

一、原告は被告がなした本件固定資産税延滞金及び延滞加算金の免除を地方自治法第二四三条の二にいう財産の違法な処分にあたると主張するのであるが、租税の賦課徴収権の如きは、具体的に確定したものであると否とを問わず、右法条のいう「財産」に含まれないのであつて、原告の本訴請求は納税者訴訟の対象となりえない不適法なものである。すなわち、地方自治法第二四三条の二の納税者訴訟制度は、地方公共団体の財産が本来その住民各自の出損により形成された信託財産であることにかんがみ、各住民にその管理運用について監視・発言の機会を与えようとするものであり、他の住民の負担すべき公租、公課について干渉することを許すためのものではないから、地方税の賦課徴収権の如きは具体的であると抽象的であるとを問わず、同法条にいう財産に含まれないものである(最高裁昭和三八年三月一二日第三小法廷判決、民集一七巻二号三一八頁参照)。

(請求原因に対する答弁)

一、請求原因第一、二項は認める。

二、請求原因第三項のうち、被告がした本件固定資産税延滞金及び延滞加算金の免除措置が違法であるとの点は否認する。

第三、証拠関係(省略)

理由

一、原告両名が枚方市の住民であること、被告が昭和三七年八月一三日枚方市議会の承認を得て枚方市に所在する訴訟参加人株式会社小松製作所の一部固定資産に対する延滞固定資産税総額四〇八九万五三八〇円の延滞金二一七七万一三八〇円及び延滞加算金二〇四万四八二〇円を免除し、そのころ口頭で訴訟参加人に通知したことについては当事者間に争いがない。原告両名が昭和三七年九月二四日枚方市監査委員に対し地方自治法第二四三条の二第一項(昭和三八年法律第九九号による改正前のもの。以下同じ。)により被告の本件免除措置は枚方市の財産の違法な処分にあたるとして、第二二回枚方市議会臨時会議事録写を添えて右措置の取消を請求したところ、枚方市監査委員は同年一〇月三日附で「地方税附加金たる固定資産税の延滞金及び延滞加算金の徴収権は地方自治法二四三条の二の請求の対象とならない。」との理由で原告両名の請求を受理しないことに決定した旨を原告両名に通知したことについては、被告は明らかにこれを争わないから自白したものとみなす。

二、そこで原告が本訴において請求する被告の本件固定資産税延滞金及び延滞加算金の免除措置が地方自治法第二四三条の二にいう財産の違法な処分としていわゆる納税者訴訟の対象となるかどうかについて検討する。

地方自治法第二四三条の二にいわゆる納税者訴訟制度は、普通地方公共団体の公金、財産、営造物が主としてその普通地方公共団体の住民が納付する公租・公課等の収入から形成せられ地方自治行政の財政的基礎をなすものであり、いわばその住民から普通地方公共団体に信託された信託財産としての性質を有するものであることに鑑み、これが普通地方公共団体の役職員によつて違法に支出、管理、処分されることがないよう住民に監視せしめると共に、かかる違法な支出、管理、処分がなされた場合には住民にこれを是正する手段を与えるために法律によつて特に認められた制度である。従つてこのような納税者訴訟の本来の目的に照らせば、その対象となる財産とは住民の納付した公租・公課等によつて形成された普通地方公共団体の公金及び営造物以外の財産であつて普通地方公共団体の財政的基礎として現実に使用しうべきものをいうものと解されるのである。

従つて租税債権の如きは、たとえそれが具体的な賦課処分等によつて確定したものであつても、具体的な徴収行為をまつて始めて地方自治行政の財政的基礎として使用しうるにいたるものであつて、かかるものを同法条にいう財産にあたると解することはできない。

三、なお、原告は被告がなした本件固定資産税延滞金及び延滞加算金の免除が違法であると主張するのであるが、もしその違法が重大明白なものであれば、被告がなした右免除はその効力を生ぜず、被告はこれを徴収すべき義務を負うのであり、被告がこれを徴収しないときには、昭和三八年法律第九九号による改正後の地方自治法第二四二条、第二四二条の二、同附則第一一条第一項により監査請求をなし、納税者訴訟を提起しうるのであるが、改正法附則第一一条第二項により、改正法施行の際現に係属している裁判については、なお従前の例によるものとされる結果、原告が新たに監査請求ないしは納税者訴訟を提起するは格別、本訴においてこれを主張することはできない。

四、結局、原告両名の本訴請求は納税者訴訟の対象とならない不適法なものであるからこれを却下すべきであり、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条を適用して主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例